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3月議会一般質問での議論 「サイエンス・ビジネスの挑戦」を軸に。 



◇『サイエンス・ビジネスの挑戦--バイオ産業の失敗の本質を検証する』ゲイリー・P・ピサノ著
ーーーーーこの本を今般の論戦のひとつの支柱にしました。

以下、以前、鶴岡で講演多数、ゆかりのある日本の遺伝学者、JT生命誌研究館館長 中村桂子さんが毎日新聞にお書きになった書評。を転載します。中村さんによる書評も、こうした研究成果の産業化への難しさの本質をとらえているように思います。ぜひご参考に。http://mainichi.jp/enta/book/hondana/news/20080302ddm015070082000c.html
ーーーーーーーーーーー以下・転載。

今週の本棚:中村桂子・評 『サイエンス・ビジネスの…』=ゲイリー・P・ピサノ著

 ◇『サイエンス・ビジネスの挑戦--バイオ産業の失敗の本質を検証する』

 (日経BP社・2310円)

 ◇「30年間利益ゼロ」から脱皮の道は…

 「バイオテクノロジーというサイエンスのビジネスは、ろくろく利益を上げられていない上に、新薬開発を通じた科学への貢献という面でも際立った生産性を示していない」

 直感でそんな気はしていたが、ここまではっきり言われると逆に“本当ですか”と問いたくなる。著者はハーバード・ビジネススクール教授。二〇年間にわたり、製薬・バイオテクノロジー産業の技術戦略とイノベーションのマネジメントを研究し、メルク、ファイザー、ロシュ、アムジェン、バイオジェンなどの経営陣への助言もしてきた。綿密な分析の結果、前述のような結論に達したのだが、もちろんそこで終ってはおらず、よい成果を得るための提案をしている。

 分析によってまず、製薬研究開発には二つの特異性が見えてくる。一つは、深刻な不確実性がありリスクが著しく高いこと、もう一つは、そのプロセスが「すり合わせ(インテグラル)型」であることである。すり合わせと対比されるのはモジュラー型。その典型であるパソコンは、各部品間の独立性が高く、それぞれを独立して設計できる。しかし、医薬品が入り込む人体は、部品間の相互依存性が高く、全体としてのすり合わせが不可欠なのだ。

 研究が進めば不確実性は低下しプロセスは単純化すると、専門家もジャーナリストも言い続けてきたが、生物学の進歩はむしろ不確実性を強め、プロセスを複雑化させたように見える。フロンティアの開拓は、人体の複雑さを明らかにし、何を知っているかより、何を知らないかを浮き彫りにしたのである。知としては大きな進歩だが、技術にとっては、選択肢が増えただけ行き止まりの道の数も増えたことになる。更に、科学の進歩は速いが、その成果の技術としての妥当性が証明されるまでの時間は長いという課題もある。

 組み換えDNA技術の開発によってバイオテクノロジーという言葉が生れ、ベンチャー企業ジェネンテックが誕生してから三〇年。アメリカでのバイオテクノロジー上場企業の売上高は九〇年頃から上昇し、今や三五〇億ドルになっているものの、利益が見られるのは三社のみで全体としては利益ゼロが続き、マイナスの会社も少なくない。これだけ長期間利益をあげない産業は他に例がないそうだ。バイオテクノロジーのセミナーでは、資金が大量に流れ込み、新規株式公開市場が活気を呈した年を当たり年としているが、これは業績の物差しでもなければ成功の目印でもないと著者は指摘する。

 では、バイオテクノロジーが持つ可能性を産業へと展開するにはどうしたらよいのか。これまでの三〇年間を実験とみなし、先にあげた高リスクの管理とすり合わせを成し遂げればよいとする著者は、次の提言をする。

 まず、基礎科学への投資である。それも、寡占にせず多くの人に研究させること、横断的研究を助成することを勧める。次いで、トランスレーショナル・リサーチの必要性を指摘するが、ここで「ベンチャー・フィランスロピー」(たとえばビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団)の活用が重要と述べる。株式では長期安定支援は難しいからだ。ジェネンテックは数少ない成功例だが、ロシュ一社を大株主として安定化を計っており、これも一つの可能性という。気が抜けるほど真っ当な提案だ。

 企業化の戦略を持っていると思っていた米国でさえこれだとすると、戦略も分析もなしに集中と選択とイノベーションを謳(うた)っていてどうなるのだろうと心配になる。(池村千秋・訳)

毎日新聞 2008年3月2日 東京朝刊